福島の実家へ帰る旅の、静かな終わり

夜、福島の実家に帰り着いたころには、
ふたりとも、もう十分に歩いて、考えて、見てきていて、
靴を脱いだだけで、体の力がすっと抜けた。
サンライズ瀬戸に乗って、皇居を走り、泉岳寺を歩き、
小津和紙で紙を漉いた、そんな一日だった。
あれこれ言葉を交わす前に、布団に入って、
その日は、静かに終わった。

次の日は、特別な予定もなく、
時間に背中を預けるように過ごした。
近くの幸楽苑でラーメンを食べて、
少し買い物をして、
それだけで一日がちゃんと満ちる。
「何もしない」が、用意されていた日だった。

その次の朝、
高松へ向かう出発の日。
起きてみると、雪が少し積もっていた。

雪に慣れていない妻は、
それだけでうれしくなったみたいで、
駅へ向かうまでのあいだ、
何度も立ち止まっては、
パシャパシャと写真を撮っていた。

帰りの駅のホームから見た景色は、
全体がやわらかく白くなっていて、
「またね」と言われたような気がした。

帰りの駅のホームから。
雪をかぶった建物が、「またね」と言っているみたいだった。

やって来たのは、
阿武隈急行の、少し古いタイプの車両。
初代かどうかは分からないけれど、
いまの新しさとはちがう、
レトロな感じがいい。

阿武隈急行の車両。
初代かどうかは分からないけれど、
雪のホームに似合う、レトロな感じがいい。

列車が動き出すと、
雪の駅は、ゆっくり後ろへ流れていった。